旋律
医ヰ嶋蠱毒

静かに月を殺めたばかりの
眼窩より砂粒を零している
埋没した幻視を復元する為に
母の腹を裂き
網膜を潤してから悪夢へと潜航すること
(大群は囀りに非ず)
(大群は囁きに非ず)
私が私であるところに由来する
緩やかな壊死の痛覚を天秤に掛け
恐怖を反定立として止揚した先へ踏み込む片脚の
剥き出しの神経が標を示すころ
吹曝しのままで震える脳髄の塔
黒衣を纏う無貌の奏者が口許を歪ませ四弦目を爪弾く
「貴方の五感を」
「北の心臓へ吊るしなさい」
肉體の底の色をして
白骨を暴く陰鬱な音色が聴こえるだろう
生きながらに貪られてこそ
私は反芻される問掛けにより世界から分娩され
秘匿されていた本義において再び産まれ得る
「ただし、叫んではなりません」
横臥する私の耳朶を撃つ羽搏き
血塗れの挿画を這う蟲達の跫音
巻線を擦過する弓の軋みは
開かれた窓の風に鳴る様によく似ている
(大群は囀りに非ず)
(大群は囁きに非ず)


自由詩 旋律 Copyright 医ヰ嶋蠱毒 2023-08-17 11:18:10
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