泥ぬ天使
室町

隣んちの◯◯くんの妹のチーちゃんは
小学校の作文にこんなことを書いた
  《わたしの家の前には池があります。》
それは一昨日の大雨で
団地の広場の小さな凹みに出来た幅3メートルほどの水たまりだった
  《水面から二十日鼠が出てきて踊っています。》
そういえばどこやらの政党の委員長とかいうみそっ歯の男が
選挙カーに乗ってが水たまりを通っていったっけ
  《水たまりの底から見上げた空は
  宇宙から見た地球みたいだった。
  これは二十日鼠くんの報告》
驚くべし。
記録によればたしかに二十日鼠が4匹NASAの人工衛星に入れて打ち上げ
られている。
  《昨夜のうちに小さな月が池の水をごくごく飲んで
  朝になると池といっしょに消えていました。》
下弦の月が深夜水たまりにゆれていたのはたしかだが 
どうして幼な子たちは汚れた水たまりに惹かれるのだろう
目を放したすきに
大人たちが避けて通る小さな沼の真ん中に立ち
静かに
世界を見渡している白い羽のミカエル
足首まで水浸しになって
鼻の上の汚泥をものともせず
ちゃぷちゃぷ踊り
ケラケラと弓なりに反って
渡ってゆく

ちーちゃんは詩人だ

空っぽの胃袋からはじまる人類史
食いすぎて頓死した者たちが吐き出した泥
そこから発掘される
九尾の狐と猪八頭の頭蓋

   やでもいざちゅうときわぜんぶの錠をあけて
   胃の中ぬ
   濁りば通すてやることも大事だやん。
   かちて泥ぬ天使だったあぬ頃に戻って。


自由詩 泥ぬ天使 Copyright 室町 2023-08-11 17:11:33
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