母胎
医ヰ嶋蠱毒

嘔吐を堪える白色の皮膚
洞窟の壁に絵を描き
原始の爆発
枷を繋ぎ止めるべく
咀嚼された人魚の屍
ささやかな追悼のために
逃避は許されていないから
頸部の創は忽ちに癒える

舌を晒したまま膨満し
受容しつつ漂着せよ
赤く染まる砂礫を至聖所として
太古より呪詛を帯びた器官で
平仮名の祝詞を唱え
身籠ったままで
黄金は
体毛を無くした躯に
つぎつぎと播種される
はげしい痛覚と
狂気との換語である

静謐な華の秘密のように
衣服を脱ぎ捨てるとき
忘れられていた
剥き出しの雌蕊が
背に穿たれた無数の孔で
震えはじめる
一夜にして祭壇を築き上げ
祈ることでのみ想起し得る恐怖
満月へ手を伸ばす黒い巨人
夜を暗喩するところに聳える
地獄への門
る、り、えー……

あれこそが人食いだ
幸福な生命とは
母をとうに殺めたあとの
絶頂する供犠の聲に
耳を塞ぐこと
両手を濡らす血の本来の主は
もう誰が誰だか解らないだろう?


自由詩 母胎 Copyright 医ヰ嶋蠱毒 2023-07-25 19:12:42
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