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桂
彼女の瞳は
彼女の宇宙と外の宇宙を隔てる境界線
この世界の凄惨な光景を前にした彼女は
潤んだ瞳を守るため
瞼をシャッターのように降ろしてしまう
すっかり閉ざされた宇宙の中で
彼女は一人震える
静寂さと冷たさが彼女の内側を満たすと
彼女は耐えきれなくなり 誰かに助けを求めるように瞼を開く
彼女が目を開けると
そこには最愛の彼がいて
心配そうに彼女の顔を覗き込んでいる
彼の眼差しは恒星の光のように
彼女の瞳に入り込み
凍てついていた彼女の宇宙をいとも容易く溶かし
ついには瑞々しい命溢れる世界へと変える
彼の拳は
彼の宇宙と外の宇宙を隔てる境界線
受け入れがたい現実を前に
彼は静かに拳を握る
弱きものが虐げられる現実を前に
彼は一人 戦うことを誓う
固く閉ざされ彼の拳の中で
彼の圧縮された理想の宇宙が
ビッグバンのように静かに眠っている
今はまだ拳の中で眠るそんな小さな宇宙も
時が来れば爆発して
やがては外の宇宙すら飲み込んでしまうだろう
それまで彼は行き場のない拳を空に突き上げて
進み続ける 後に続く者が現れることを信じて
彼は一人歩き続ける
私たちの口は
私たちの宇宙と彼らの宇宙を隔てる境界線
私達が彼らを彼らと呼ぶときに生まれる確かな境界線の中で
私たちは彼らを罵り
彼らは私たちを罵る
しかしその境界線は時に曖昧で
蜃気楼のように
私たちと彼らの間に引かれた線をぼやけた物にしてしまう
彼らの一人が口を開いて歌いだすと
私たちの誰かがその異国の曲に心打たれる
感情を隕石のようにお互いにぶつけ合う中で
私達は彼らも同じ感情を持ち音楽を愛する
私たちだと知る
僕の肌の上を電撃のように駆け抜けた鳥肌が
僕と世界を隔てる境界線
逆立った毛の内側で
僕の中の宇宙が外の宇宙の美しさや驚異にかき乱される
僕はいてもたってもいられず
僕の頭の中に流れた流星群を観察して
それを静かに書き記す
それは詩というような大袈裟なものではなく
無知を松明で照らし原始人が壁画に描いた落書きのようなものだ
私はこの宇宙の大きさにわけもわからず圧倒させられながらも
わけもわからないままに生きて日々感動を覚えている
それはきっと壁画を描いた原始人も同じで
きっと彼らもこの宇宙の神秘を表現せずにはいられなかったのだ
きっと誰もが境界線を前に戸惑いながら生きている
人一人が持つ37兆個の細胞と
2000億個の恒星を抱える数千の銀河
私達の中に眠る宇宙は戸惑いながらも
今日もどうにかこの宇宙との均衡を保っている