明るい闇の中で(二)
おぼろん

「ふん。千人隊長でもない一魔導士が、わたしに何を言うのか?」
「お前は虜囚だ。口の利き方に気を付けるが良い」
「口の利き方? 魔導士風情が大層なことを言う」
「その魔導士が、お前を捕縛しているのだ」──エインスベルは答えた。

フランキスは、その両手、両足を縛られて、椅子に座らされている。
ここから逃れる術はない──フランキスは分かっていた。
このエインスベルという女に捕らわれた以上、待っているのは死だけだと。
フランキスは、誇りのためにその命を捨てようとしていた。

そして、エインスベルの問いかけを待つ。その時間は長かった。
一ヤールほどの時を経て、エインスベルはようやく口を開いた。
「祭祀クーラスを暗殺してほしい」……フランキスは青ざめた。

暗殺、という凶行が彼を圧したのではない。彼を圧したのは、
エインスベルのその口調だった。(この女は、この国の国体を滅ぼそうというのか?)
フランキスは、囚われの身ながら、クールラントの行く末に思いを馳せた。


自由詩 明るい闇の中で(二) Copyright おぼろん 2022-10-07 21:03:31
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クールラントの詩