夜の空
岡部淳太郎

病室の窓から
夜の空を見つめる
何もない
何も起こらない
ただ黒いだけの空を
病院の灯りが反射するなかを
幻想の円盤が立ち止まる
意味ありげに
知性を持つもののように
私にその姿を見せる
もちろん幻想なので
私の心のなかにしかない円盤だ
それはこの夜よりも暗く
私の不安で満たされた心よりも暗い
宇宙の深淵からやってきて
私の心の前に立ち止まる
幻想は幻想のまま
物理法則を無視した飛行を繰り返す
私の心も物理法則では計れない
私はこの白いベッドに横たわりながら
黒い空を見つめて
この黒さを突き抜けた先にあるものを
宇宙の深淵のような
私の人生のような
計り知れないものを夢想して
その夢のかたちを想像しようとしている
その想像の隙間に落ちてきて
私の枕元に散らばる
夜の剥片
私の心の暗さから
剥がれ落ちたような――



(2022年7月13日)


自由詩 夜の空 Copyright 岡部淳太郎 2022-07-13 20:18:08
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