盗賊ヨランの旅(十)
おぼろん

盗賊ヨランはにやりと笑う。
その笑いの意味を、エイミノアは推し量れなかった。
「くそっ、これはエインスベル様を助けるための旅ではないのか!」
「あなたにはまだ焦りが見えます。エイミノア様」

「焦りがなんだと言うのか、事は急を要するのだぞ?」
「いいえ。まだまだです。エインスベル様は必ず生き永らえるでしょう」
「そこにどんな確証があると言うのか?」
エイミノアは憤った。今度はヨランに対してである。

しかし、ヨランには確かな情報があったのである。
エインスベルは、次の月が満ちる夜、処刑される。
それまではリーリンディア監獄に幽閉されたままであろう。

盗賊ヨランは、祭祀クーラスの言論至上主義を弁えていた。
(クーラスが、その約定を違えることはあるまい。それまでは、
 エインスベル様も無事でいらっしゃるに違いない)ヨランは遠い目をした。


自由詩 盗賊ヨランの旅(十) Copyright おぼろん 2022-07-01 20:40:59
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