イグアナのご遺徳を偲ぶ
壮佑

「え~~本日はぁ、天気日頃もよろしゅう、氏神様のご祭礼によりぃ、
これより大節分豆まき大会を開催させていただきます。皆さま万障お繰
り合わせのうえ、ご家族お揃いでご参加下さいませ。なお~、お子供衆
には~、白玉ぜんざいと福豆菓子をご用意いたしておりますゆえ~、巫
女Aのマダラ蜥蜴のお姉さんとこでみんなでいい子して貰ってね。お父
さんお母さん方におかれましてはぁ、巫女Bの売店にてぜんざい太巻き
パックを販売いたしておりますゆえ~……」

 でっぷり太った羽織袴姿のイグアナが豆まきの口上を述べると、皆は
やんやの拍手喝采を浴びせたものだ。その時、この惑星は百億のぜんざ
い太巻きパックで溢れ、都市では千億の豆に足を取られてひっくり転げ
た市民が歓喜しながら将棋倒しで圧死を繰り返した、と言っては些か大
仰との誹りを受けるやも知れぬが、それにしても嗚呼、私達はなんて惜
しいイグアナを亡くしてしまったのでしょう。立春の候、二月の節分の
日に、私達は得てしてとんでもなく卑猥な腰つきで豆をまいてしまいま
すが、白玉ぜんざいと福豆菓子を喰らったお子供衆の豆まきは、破瓜期
以降はおっかなびっくりで月面まで御開帳と言われている。これに就い
ては慧眼なイグアナは三杯酢で肝を冷やしていた。しかし、しかしデス
ッ。洪水は三つ児のイグアナの魂198テラバイトぽっきりで起こる!
いわゆるイチキュッパでその後はリツィート次第とのこと。タリム盆地
の雪解けはそれからだが、雪の下からミミズに似た巨大ハネナシギボシ
ムシが顔を出しても、この町の福祉行政は全く関知しない。

 けれどもお祭り好きのイグアナが、ホーローシステムキッチンの蛇口
から勢いよく踊り出て来た日にゃあまた話は別だ。市の水道局の委託を
受けた闇鍋業者は、踊りの大洪水にならないよう羽織袴を持参して、昆
布うどんとシャケむすびを各々即行で掻き込むだろう。それでこの有限
だが果ての無い噴飯宇宙の四方八方丸く収まるのならいいじゃないか。
羽織袴姿のイグアナはしゅるしゅると蛇口の中に舞い戻りはするが、そ
の後も豆まきの口上を述べる機会を虎視眈々と狙っている筈だ。いやそ
の筈だった。ところが、どころがですっ。そのイグアナが亡くなったの
です。蛇口の糞詰まりがイグアナのぜんざいを食べてしまったのです。
太巻き寿司はクリューゲル高原まで七転八倒して変態を繰り返すと、挙
句の果てはミノカサゴの赤い腰巻きになってしまいました。

 嗚呼、嗚呼、わたくしは一体どうしたらいいのでしょう。ミノカサゴ
の腰巻だなんて。いやですわ。赤い腰巻と羽ばたく越中フンドシ! 身
も世もあらぬ大股開き! 嬉し恥ずかし百万人の夜! わたくし感涙あ
いむせぶ思いでございます。それであのう、つかぬ事をお伺いしますが、
イグアナの羽織袴の下のランジェリー関係はどうなっていたのでしょう
か? こちらもやはり越中フンドシでしょうか知ら。それともバイオレ
ットのオープンフロント軍艦ショーツだったのか知ら。さあて、シャム
双生児ならぬシャム彗星三つ児のイグアナでしたから、どうなっていた
のでしょうねえ。そもそもオスなのかメスなのかとんと不埒千万でした
から。あら、いずれにせよその場合は、フンドシやショーツは一葉だけ
欧州ハドロン衝突型加速器行きで、三つの頭部はコインランドリーのド
ラム式洗濯機にぶっ込むだけでよかったんじゃないか知ら。前半身は三
つに裂けていても 後半身は一つだけでしょう?

 まったくもって仰るとおりです。しかし追跡調査によれば、フンドシ
とショーツを両方同時に着用していたフシがあります。さらにキャミソ
ールと腰巻きもです。あと腹巻きもです。とは言えイグアナの生態につ
いては謎が多く、未だ解らないことが多いのです。何にせよ下着まで剥
ぎ取られてフル○ンになったイグアナは、……嗚呼、嗚呼、それはとて
も涙無しでは語れません。殻から追い出されたヤドカリみたく、三段腹
の下の極度に貧相な秘所を九本の足で隠し、オホホ、オホホと恥じらい
ながら、大東京は小田急線、祖師ヶ谷大蔵の路地から路地へ、ゴミ溜め
からゴミ溜めへ、月面のあばたからあばたへと、小走りで逃げ隠れして
いたのでございます。やがて、極度のストレスから免疫機能が低下し、
とっくに人(?)格崩壊を来たしていたイグアナは、よりによってあの
懐かしい豆まきの季節に、とうとう業病ロック鳥インフルコロラに感染
してしまったのでございます。

 亡くなったのは確かタンホイザーゲートのグァンタナモ貧救院でした
ね? ええ、ええ、まさしくそうに違いありません。うぬぬぅ~イグア
ナ翁(か婆さんかはっきりせんが)もさぞやご無念であらせられました
でしょう喃……(涙)。よっしゃあ! かくなる上は五穀を断ち、朝夕
の浄めの詩篇朗読怠ることなく、鎮魂帰神行に励むとともに、コーラン
やら新旧実在論やらKindle版『ヨイショする営業マンは全員アホ』な
んかも適宜引用しつつ、皆さんで豆まきして故イグアナのご遺徳を偲び
ましょう。そうしましょう! そうしましょう! おいコラお子供衆は
さっさと集合! では、不肖私めが口上を述べさせていただきます。

「え~~本日はぁ、天気日頃もよろしゅう、氏神様のご祭礼によりぃ、
これより大節分豆まき大会を開催させていただきます……皆さま万障お
繰り合わせのうえ、ご家族お揃いでご参加下さいませ。なお~、お子供
衆には~……(以下略)」。おい、まだ豆喰うなよ。





自由詩 イグアナのご遺徳を偲ぶ Copyright 壮佑 2022-03-24 21:18:23
notebook Home 戻る  過去 未来