都市
壮佑

・Geometrical arachnida・│▏/「/│/┌─―|
幾何学的なくせにネバネバした、巨大な蜘蛛の巣に過
ぎなかった都市は、街のそこら中で汚れた糸が筋を引
いて、互いにくっ付き絡まり合って、全くにっちもさ
っちも行かなくなった。あちこちに転がる黒灰色の塊
の中には、大量のアブラ虫やシデ虫や、臨海工業地帯
ではフナ虫が巣を作って、ザワザワ出入りしてはそこ
ら中を這い回っている。

/┌─―|―/「」・Three-dimensional lattice・
都市を構成する立体格子から、枯れた蔓草が垂れ下が
り、蜘蛛の糸と絡まり合って、風が吹く度にぶらぶら
揺れている。そんな廃墟のような都市の街路を、人々
は妙に律儀に挨拶を交わし、あっちを向いたりこっち
を向いたり、方向転換しては歩き回る。さながら古い
B級SFに出てくるネジの錆びたロボットのように。
/┌─―/―/

・Ship that ran aground・|―/──/┌─―|―
俺は知っている。みんなは暗い船底からやって来たん
だ。黒潮の循環がとうとう力尽きて、悲鳴を上げなが
ら干上がった海で、あえなく座礁した船を打ち捨てて
来たんだ。そうして水平線や地平線の向こうから、ぞ
ろぞろ姿を現わしては、砂糖に群がる蟻のように、こ
の都市にやって来ると、この街のこの交差点で一時停
止する。

──│▏▁「―/──/▏//・Yellow room/Gry dogs・
俺は知っている。やがてギラギラした夏が来れば、み
んなはやっぱり律儀に挨拶を交わしながら、充血した
眼の犬を連れて、上の方は霞で隠れたジグザグの階段
を昇り、立体格子のユニット一つ分の空間に作られた
黄色い部屋に入って行く。みんなはそれぞれのスペー
スの中で、灰色の犬の頭を撫でながら、体育座りの姿
勢で居眠りをする。

・A heath of flame・ /──│▏▁「|―/──│
誰が燃やしたのか。都市の真ん中に開いた空洞から、
天空へと垂直に延びてゆく蜘蛛の糸の太い束が、蒼白
い炎の鞘に包まれて燃え上がっている。地平線の彼方
では、巨大な蜘蛛が手足を広げて、胴体からぶすぶす
黒煙を上げながら、夜の海に横たわる銀河のように、
ゆっくりと沈没して行く。

│/┌─―/―/──┌─ ・The last cigarette・
最後のタバコに火を点けて、俺はまた歩き出す。長い
鞭毛をのたくらせて泥水の中を泳ぐアブの幼虫を模し
た装置が、何処かで作動している。空洞の遥か北に立
つ銀色の塔から、闇の粒をばら撒いて餌付けした巨鳥
が、全ての夜に対して補色で光る夢を分泌しながら、
この都市を睨め回している。

・The inside of the skul・/┌─―|―//│▏/
だが、俺の頭蓋の内側を、七色の棘で突ついているウ
ニが、いま垂れたあぶくのような糞の色までは、まだ
視ることはできない。






自由詩 都市 Copyright 壮佑 2022-03-16 21:06:05
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