薄いアポカリプス
壮佑


 執拗にのたくる
蛇のような走査線の裏側から
  黒色に泡立つ粒子の
 ホログラフィックな性夢として
   二台の戦車の幽霊が姿を現わす

 海へ突き出た岬の草地を、蹂躙する鋼鉄のキャ
タピラー。七色の光彩を放つ無数の走査線が、二
台の戦車の厚い鋼鈑に、水平方向から衝突し、発
光し、四方八方に飛び散って行く。
                二台の戦車は
追いつ追われつ、敏捷な前進と後退、方向転換、
互いに背後を取ろうと、回り込み、正対する。至
近距離から放つ戦車砲の炸裂、黒煙、弾道の交錯、
光の軌跡。モノの形骸は砕け散り、すべては黒色
粒子に還る。

 反復
する
 ウェイヴ
    液状化の
   侵蝕
 加速する
  蠕動
    垂直粒子の
   のっぺり
 した 
  電磁の
 闇と
   闇

 青い蛍光色の元素に汚染された海で、潮は永遠
に干満を繰り返す。鉛の魚群を追い立てて、爆裂
する海面。浮上するポラリス型原潜。遠い故郷の
星を失い、黄道十二宮も削除され、緯度も経度も
解らず彷徨い、虚無に向けて放つ、極超音速核ミ
サイル。
    遥か遠方の、煤けたオレンジ色の空に、
湧き上がるピンクのキノコ雲。沸騰する脳、ダラ
リ垂れ下がる脊髄、取り巻く輪状雲、脳漿の黒い
雨。在ることの倦怠の、果てし無さに身悶えする、
過去と未来のすべてに向けて、ノイズ塗れの殲滅
の歌を、暗号化して送信する。

永遠に
繰り返される
戦車の
戦い
炸裂する
脳髄
キノコ雲の
幽霊
垂れ下がる
脊髄
飛び散る
鉄錆よ
渦巻く
孤独よ
血液を
荷電せよ
沸騰する
リンパの網状循環よ
メタリックグリーンに
輝け 薄 い 
薄 い 
薄い 
薄 い
う す


 す

 う



















自由詩 薄いアポカリプス Copyright 壮佑 2022-03-10 17:19:35
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