眼をやられた男
壮佑

街を這いずり回る
薄汚れた思想を
ひっくり返せば
苔の付いた鰐の腹を晒し
蹴り上げれば
貧弱な翼で羽ばたき
裏通りをヨタヨタ低空飛行した後
暗い巣の奥に引っ込む

  奴らはウザウザと生き
  ウザウザと死ぬ

ヒトの顔貌は
絶えず剥がされ
失くした言葉を求めて
ざらざらの舌で
風のスジを舐め回しても
絡み付いて来るのは
饐えた思想の臭いばかり

  奴らの巣の中を手探りしても
  卵は生ゴミに出した後だ

街外れのゴミ集積場で
奴らの屍骸と
卵で膨らんだゴミ袋を漁る
このバカ犬がぁ!
と声を荒げて
野良犬との大笑いな
争奪戦が始まる

  ゴミ袋を喰い散らかす俺は
  屍骸の毒で眼をやられた男だ

いつかもあった
無風の午後に
外海に向かう
堤防沿いの道を
野良犬から奪った卵を懐に
洞窟を行くように
手探りで歩く

  海面を反射する光が
  俺の背中を刺しても分かるもんか

突堤の先端に来れば
無風の時は終わり
向こう岸から吹き始める風と
萱の茂みのざわめきに混じって
たくさんの小さな声が
聴こえて来る

  ささやかな宴の主は
  奴らの卵を喰らうとしよう

遠い昔に
青い 青い 底なしに青い
空と海を見たことが
あったような気がして
ひとり笑いする

  コンクリートの床に横たわり
  俺は微睡に落ちてゆく






自由詩 眼をやられた男 Copyright 壮佑 2022-03-03 19:11:30
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