なしくずしのゲームとその神髄、それから水分の必要性について
ホロウ・シカエルボク


寒気にひび割れ、傷んだ世界の狭間、高速ですり抜ける意志と、失速しうなだれる幾つかの首、ベネズエラの煙草を咥えたアジアのギャングたちが、所かまわず改造拳銃の銃口を詰まらせる午後早く、剥ぎ取った落花生の殻が床に落ちて、気付かず踏みつけた俺はひとり悪態をつく、リアルなダブル・バーガーを提供している噂の店が流行病のせいでシャッターを下ろしたって知合いがツイートしてた、「お気の毒に」とリプライしてインスタントコーヒーを二杯がぶ飲みする、もっと水分を取るようにと医者に言われた、コーヒーは水分ではなく飲料水なんだってさ、それは身体を潤すことはないんだって…ふん、だけどそれがいったいどうしたっていうんだ?俺はいつだって砂漠のように渇いているのさ、生来的な渇きには答えがないんだ、どういうことか分かるか?一生続いていく鬼ごっこなんだよ、俺は渇き、オアシスを求める、蜃気楼かもしれないそれに向かって、懸命に歩を進めるのさ、実際、水が飲みたいのかどうかなんて、分ったもんじゃないけどね―安易に理解したりなんかしない、一番おさまりのいい回答が現れるまで、すべては思考のプールに浮かべておくんだ、時々かき混ぜたりなんかして、目につきやすいものを変えてみたりしてさ…どいつもこいつもすぐ食えるものに慣れ過ぎて、すぐ手に入るものだけが大事みたいな考え方になっている、だけど、そんな風に本当のことが手に入るかどうかなんて、ちょっと考えてみれば分かることじゃないか、そんなことにすら考えが及ばないのなら、そいつは相当間抜けだと言う他ない、本当のことを手に入れるには途方もない時間がかかるのさ、イージーな欲望が手に入れられるものは、至ってイージーな結果に過ぎないのさ、タイムアタックな世界、レースではなく、怠慢を基調とした…スムーズなだけの、見るもおぞましい世界さ、教訓も認識も理解も、爪の先ほども存在しない確立された世界、そうさ、簡単なものは確率されやすいんだ、その先を臨む勇気の無い連中が、その中で安穏と暮らしてる、それが一番賢い選択だって顔をして…標準域だけが残された世界で幸せを感じてるんだ、それは実におぞましい話だぜ、思考と生命の無駄遣いだ、とはいえ、そこから逸脱していこうという連中にだって、なにかがおかしいなと思わせてくれるようなやつは大勢居て、結局のところ、外れた場所で違うコミュニティに加わって欠伸をしていたり、ひたすら正を反にすることでやり遂げたような顔をしていたりね、そりゃもう滑稽ってなもんさ、俺は三杯目のコーヒーを飲む、水を飲めば身体は潤うのか?本当はそんな簡単な話じゃない、渇きはそんな簡単になくなったりしない、だってそうじゃないか、渇くからこそ、俺たちは求めるんだ、それは自分自身の根源に繋がる渇きなんだ、それはどんなことをしても基本的には、砂漠のように渇き続けているだけなのさ、だけど、一瞬、すべてのベクトルが上手い具合に噛み合った瞬間に、もうどんなものも要らないと思えるくらい満たされることがある、だけどそれは一瞬で終わってしまうんだ、きっとその瞬間にこそ、人生の意味というのは存在するんだろうな、それは結果ですらない、結果を手に入れることは出来ない、もしかしたら死んだときに―いや、たとえ死んだところでそれは手に入れることは出来ないのだろうな、どれだけ生きてもきっとひとは途上に過ぎないんだ、すべての命あるものは結果を手に入れることは出来ない、俺たちは進化の欠片に過ぎない、だからその中を懸命に泳ぐしかない、仮に、次の生なんてものがあったときに…それはほぼ確実にあるのだろうけれど、その蓄積が少し見晴らしのいい場所に立たせてくれるかもしれない、まあ、そんなこと、ここで口にしてもしかたのないことだけど、結局のところそれは、懸命に求めてみるしかないものなんだ、懸命に求めてみるしかないものなんだよ、俺は初め、長く生きればなにかしら手に入るものだと思っていた、でもそれは違った、「ここでいいや」と思いさえしなければ、渇きは一生続く、より混沌とし、より狡猾に、より深い理解と、集中力が必要になる、それはちょっとしたゲームだ、けれど余興と呼ぶにはあまりにも意味深で残酷なゲームさ、ほんの少し、見えなかったものが見えるようになるせいで、その先の果てしない未知が津波のようにこちらに押し寄せてくるのを感じる、それに飲み込まれ、座標を失わないようにするにはどうすればいいのかと頭を悩ませるんだ、そして一番重要なことは、それはこちらの意思で、スタートボタンによって始まるものではないということなんだ、君、ゲームはもう始まっている、ファストフードを置いて、ファイティングポーズを取るんだ、そこにはゲームオーバーもコンテニューも存在しないけれど、絶対に逃してはいけない瞬間というものが必ずあるんだぜ…。


自由詩 なしくずしのゲームとその神髄、それから水分の必要性について Copyright ホロウ・シカエルボク 2022-01-08 11:40:39
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