混濁
入間しゅか

兎角
私の発声には混濁が付き物だった
息を吸って吐いて
脳みその奥深くをぐるぐるとかき混ぜる作業だった
 
マスクをした状態で
咳やくしゃみをした時の
飛沫が飛ぶ様子を
特殊なカメラで撮影した映像

思い浮かべては
呼吸の仕方を何度もおさらいしている
渇き切った唇の重さが
発声を妨げている

理性とは無関係のところで
振戦とアカシジアに
感情を喰われていた
喰いつぶされた感情は
本来声になるはずだった

ある朝
マクドナルドで
マックグリドルソーセージエッグのセット
ドリンクはアイスコーヒー
が食べたくて
レジの前に立ったまではよかったが
未だに発声を確保できずにいた

パーティション越し
レジカウンターの店員が胸に
研修中の札をつけていたので
深く息を吸うことができた
マの音の形に口が開くまで
飛沫が飛ぶ様子が浮かぶ
ふるふると
躍動する振戦に乗せて
文字が
言葉が
声になると
停止したアカシジア

朝マックを貪りながら
脳内に声が谺していた
あれは自分の声だったのか
振り返ると
そこは暗い洞窟で
行く手を阻む
どす黒い闇が意識を支配し
もう一度
呼吸からやり直していた


自由詩 混濁 Copyright 入間しゅか 2021-07-09 16:03:16
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