ブルース・ブラザース、日本へゆく第一章 23 
ジム・プリマス


23
 倒れこんだままピクリともしないエルウッドを気の毒に思ったエリオットは語気を強めて言った。
「エルウッド様。今回の二度の引き落としが不当なものであり、不正規なものであるならば、当行といたしましても、顧問弁護士と相談の上、当行の全力を挙げて事の真相を調査させていただきますが、いかがなさいますか?」
 エルウッドはうつむいたまま、手だけを上げて、その手を左右に振る。起き上がったエルウッドはすっかり意気消沈していて、弱弱しい声で言った。
「いや、いいんだ。エリオットどうもありがとう。葉巻はともかく、僕は車は受け取ったんだ。キーもここにある。」そういうとエルウッドはポケットから三角形のレガシィのキーを出してエリオットに見せた。
 エルウッドはハリエットの方を向いて「ハリエット、ペリエ水をどうもありがとう。」 そう言うとテーブルから立ち上がった。
「エルウッド様。調査の方は本当にかまわないので?」そういうエリオットにむかって、エルウッドは両手をあげながら「いいんだエリオット。忙しいのに騒がせてすまなかったね。」といって、貸付ブースから出て、とぼとぼと歩き始めた。
 エルウッドはしばらく歩いてから、振り返り、事の成り行きを見守っていた銀行の面々に「みんな、ありがとう。世話になった。またくるよ。でも、今度は本当に借り入れを頼まなくちゃならないかも知れない。」そう言った。そして、エルウッドは出口に向かってまた、とぼとぼと歩き始めた。
 エリオットは出口までエルウッドを送ると、さっきとは打って変わって、すっかり肩を落として、元気をなくしてしまったエルウッドが、正面のドアを開けて通りへ出てゆくのを、慇懃に礼をして見送った。
 しばらくの間は、銀行の面々も勝手がわからないまま、ひそひそ話しをしたりしてたけど、副頭取のエリオットがわざとらしく二度、三度、咳払いをするものだから、普段のお堅い仕事に戻るしかなかった。



散文(批評随筆小説等) ブルース・ブラザース、日本へゆく第一章 23  Copyright ジム・プリマス 2020-08-15 06:17:27
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