厨房に立つ(改題しました)
山人

 コロナの影響で家業はさっぱりだったが、昨日は久々に朝から厨房に立った。昔から来ていただいている県内客の四名様。この人たちは少人数でやってきては、楽な場所で楽に山菜を採りたいと色々と突っ込みを入れてくるのだが、要は入山料を払わず採りたいという扱いにくい常連さんだ。
この方々は私より年配で、それぞれがなにかの会社を経営されている方々のようである。製造業種のようで今のこのご時世にはさほど影響はないと言っていた。
 二〇〇〇円のメニューなので、手打ちそばと山菜の天ぷらをメインにあと五品ほど何かを作ろうと考えていた。取りあえず前日、生ウドがなかったので、職場の現場から抜いてくる。このウドでウドのマヨ&チーズ焼きと胡麻和えができる。先に冷凍しておいたコゴミ(クサソテツ)を解凍し、ウドとコゴミの胡麻和え二点盛りとすることとした。あと、フキノトウの冷凍したものを解凍し、少し天ぷら用とすることにした。フキノトウの解凍済の残りは細かく刻んで大根おろしと混ぜ、三杯酢っぽく和えた。ウルイ(オオバギボウシ)は茹でてサーモンと辛子酢味噌で和えた。コゴミ・解凍したフキノトウ・ウドの葉っぱ・コシアブラ・トンビマエタケは天ぷらにした。 
 蕎麦は昔とった杵柄があったので、自家用含め六人分打った。JA広瀬店で石臼挽きのそば粉を買っているが、最近いい粉が出ているようで旨く打ち上がった。蕎麦つゆは本来、本返しから作ればいいのだが、少量あればいいので市販のものに煮干しダシを加え割って作った。
 最近、この家業と林業関係の二つのダブルワークとなっているが、スキルアップに関する興味は林業関係が占めてしまっている。過去に山小屋と蕎麦店もやっていて、美味い蕎麦を作るにはどうしたらいいものかと悶々としていたが、結局決め手となるものは得られず、立地条件を理由にやめたのである。
 山菜は基本的に苦みとえぐみが多く、茹でてからしばらく水に浸してアクを抜く必要がある。いろいろと手間が掛かり、食材はタダだから儲かるだろうというのは確かにあるのだが、労力は半端なくかかる。では、なぜそんなアクの強い野の草を食するのかといえば、毒気だろう。さらっとしたほんのり甘いスーパーの野菜にはない毒気だ。そしてその毒気だが、適度に緩和された味区分があり、それをめざすのが山菜料理ということだと考える。山菜に限らず獣の肉でもそうだ。あまり人気のない野ウサギの肉など、火を通す前に周到な血抜きをしなければならないし、熊の肉は数時間煮込まないとうま味が出ない。これら、野生の食肉や野草はそれぞれ適性到達点があり、そこを上手に料理していく必要があると思っている。
 常連さんたちはあっという間に山菜を食べてくれ、蕎麦含め完食してくれた。こういう手間ばかりかかる儲からないお客さんは、あまり嬉しいものではないが、消えかけた炎に火を点けにやってきてくれるのだ。 
 


散文(批評随筆小説等) 厨房に立つ(改題しました) Copyright 山人 2020-05-17 09:09:58
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