今日、明日
墨晶

          un pastiche, encore


きみが書く手紙の文字は読もうとすると揮発してしまう

ありきたりの半島とありふれた海峡

街を寸断する運河や暗渠 について

おそらく伝えたいのだろうが しかし

我々は会ったことのないふたりなのだ


我々の必然故に共有されたものたち

不可視の地形図を

聞く以前に知る幻聴を

オリーヴの枝を揺らす金色の風を

誰も(無論我々さえも)いない庭園を

手放すことによって(やっと)得る薄明crépuscule


イーゼルのうえの姿見かがみ

古い木馬

暗闇で自転する緑の林檎

湯気立つ紅茶茶碗

見ようとする度すがたを変えるものたち

事物は描かれることによって見失う


彼誰刻前

デスクライトの灯りのもと

オレンジの果皮の残り馨に似た

読まれることのないブルーブラックのことばを万年筆は綴る


交わし合った無名の象徴よ

そこになかったものたちは

当然懐かしい


そうだ あきらかに我々は存在しなかった

そして これからもだ





自由詩 今日、明日 Copyright 墨晶 2020-03-25 23:29:54
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