すべての世界はつながっているというのに
いとう


もうずいぶん昔のことなのに
最近になってもあけみは
僕の前に現れてきて
彼女はまだ
忘れていないらしい


        僕が彼女を忘れていないように
           それは確かな事実として


最近の彼女の決まり文句がこれまた冴えていて
「こっちにくれば 安心なんだよ」
なんて
たとえば
とても悲しくて寂しくてやるせないことが身の回りで起きて
それこそ
本当にどうしようもない時に
あけみの言葉を思い出して
つい
そう、"つい"なんだけど
信じてしまいたくなることがある

確かに
僕とあけみのラインはいつもあやふやで
よくわかんなくて
だからこそ
彼女は僕の前に現れるんだろうけど
でもね
あけみ
本当に
確実に

死んだら安心できるのかい?
死んでも独りぼっちなんじゃないのかい?
僕が与えたその悲しさと寂しさとやるせなさは
君にそのまま貼りついて
離れないんじゃないのかい?


        僕が彼女を忘れられないように
           それは確かな事実として


雑踏の
僕の視線の彼方
彼女の頭だけが見える時があって
立ちすくむと
頭だけが近づいてきて
怖くなって
目を閉じて
すると余計に
近づいてきて

「こっちにくれば 安心なんだよ」

耳元で
そんなふうに

「こっちにくれば

あけみは
         安心なんだよ」
なんども
         安心なんだよ」
囁くけれど
         安心なんだよ」

あけみ
君はそんなにも不安なのだろうか
君はそんなにも寂しいのだろうか
今も
そして
これからも
僕の世界と
君の世界と
自分自身で線を引きながら

君はなんだか
死んでからのほうが饒舌で
死んでからのほうが
僕と深く
こんなふうに
深くつながっているというのに


       僕が彼女を忘れたくないように
          それは確かな事実として





未詩・独白 すべての世界はつながっているというのに Copyright いとう 2005-04-08 17:45:51
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