いとう

「あけみ」という女の子の話。
違うかもしれない。もしかしたら僕の話かもしれない。

あけみが僕のそばにいることに気づいたのは彼女の一周忌の夜
彼女にはとても好きなカクテルがあって
僕は供養のためにそれを作り
机に置いてそのまま寝たのだけど
翌朝目が覚めると
グラスは粉々に砕けていた
もちろんカクテルは空で
濡れた形跡もなかった

ねぇ、あけみ
君はそういう子だった
よく覚えているよ

君もまだ
覚えているんだね


                                   そう
                                覚えている

また別の頃の話。
当時同棲していた彼女は霊感が強くて
ときどき部屋の隅をじっと見つめたり
突然、「大丈夫よ」って
僕の手を握りしめたりしていたのだけど
ある夜

                 さっきあなたの隣りに髪の長い女の人がいて
                       あなたの話を熱心に聞いてたよ

そんなことを
                          サッキアナタノトナリニ
                      カミノナガイオンナノヒトガイテ
か細く
                             アナタノハナシヲ
言うものだから
                           ネッシンニキイテタヨ

泣きそうになってしまった


                                   そう
                                覚えている
                                いつまでも
                                覚えている

あけみは

                飛び降り自殺だった
遺書はなかった
                              でもそれは僕が
                                 アナタガ
                殺したのだ
                               コロシタノ?

でも本当に
そうだったのだろうか
                               ワカラナイ?
わからない                          ワカラナイ?
わからないんだよ

あけみ                            ワカラナイ?

                (遺書はなかった)

                              …コロシタノ?


そしてさらに何年も後の話。
寒い冬の夜
僕の部屋
アパートの4階

深夜窓を叩く                           トントン
音がするので
怖くなって                        トントン
布団をかぶっていたのだけれど           トントン
その音はどんどん大きくなっていって    トントン
怖くなって            トントン
ついに          トントン
開けてしまった  トントン
     トントン
 トントン


ガラッ

                    あけみだった。
何故かきれいなままで
僕と目を合わせて
無表情で
か細い声で                               タ

何故死んだのだろう                           ス

僕は                                  ケ
生き残って
泣かなかった                              テ

あけみは
いつも
泣いていたのか                             タ
苦しんでいたのか                            ス
                                    ケ
                                タ   テ
ごめんね                           ス
とは言わない                        ケ
                             テ
言えない
助けられない
                          タスケテ
                 タスケテ
         タスケテタスケテタスケテ

イ  レ  テ

僕はじっと見つめるだけだった       イ
あけみのいる場所は                  タ
この窓の外は              レ
本当にとても寒そうで                    ス
月明かりが照らし出すあけみは     テ
手を触れられるほど近くにいるのに                 ケ
それでも
窓の内と外は                  イ           テ
まったく違う場所なのだ
僕はまだ              レ
生きているのだ       テ       イ
                      レ
ねぇ、あけみ。               テ
(僕の声は震えていて)       イ
君はもう、死んでいるんだ
(あけみは不思議そうな顔で)   レ
わかってる。僕のせいだ
(僕たちは見つめあったままで) テ
君を悲しませるようなことを僕がしたから
(僕たちは隔てられていて)  イ
君は死んだんだ
(月明かりはあけみだけを照らして)      レ

あけみはいつまでも不思議そうな顔をしている          テ
僕はまだあけみを見つめながら

でも大丈夫
覚えているよ
僕が
いつまでも覚えているから
君のことは
忘れたりしないから
ずっと一緒にいるから                         そう
                                覚えている
僕はいつのまにか泣いていた                   いつまでも
あけみはいつのまにかいなくなっていた              覚えている
僕は窓を閉めて
泣きながら眠った

                              …コロシタノネ


目が覚めると
窓に
血糊の手形がついていた
そんなことしなくても覚えているのにと
少しだけ
苦笑いした





未詩・独白Copyright いとう 2005-04-08 17:45:06
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