カナリア
もっぷ


羽ばたきたい 羽ばたきたいの

せっかく翼 いただいたのに

歌いたい 歌いたいのよ

せっかくカナリアなのだから



わたし いつでも籠の中

綺麗だからと 籠の中

「みなさんこれが 我が家の小鳥」

綺麗だからと 籠の中



わたし いつでも籠の中

歌を歌えと 籠の中

歌いたいけど 歌うまい

決して 決して 歌うまい



いつか 羽ばたく日が来たら

いつか 籠から出れたなら

そうしたならば 歌いましょう

そうしたならば 聴かせましょう



けれど この家のヒト わたしの翼

逃げないようにと 切ってしまった

ほんの少しは 籠の外

けれどもせいぜい 肩の上



羽ばたきたい 羽ばたきたいの

せっかく翼 いただいたのに

歌いたい 歌いたいのよ

せっかくカナリアなのだから



――あっ!開いている!

籠の扉が開いて(ひらいて)る

閉め忘れたのに気づかない

なんて間抜けな 人間よ



羽ばたきたい 羽ばたきたいの

せっかく翼 いただいたのに

歌いたい 歌いたいのよ

せっかくカナリアなのだから



――あっ!開いている!

籠の扉が開いてる

閉め忘れたのに気づかない

なんて間抜けな 人間よ



羽ばたこう 羽ばたこう

この留守の間にこそ あの空へ

歌いましょう 歌いましょう

ヒトに聴かせるためでなく



――けれども わたしのこの翼

羽ばたけるほど 残っていない

戸惑ううちに あの奴ら

パーティー終わって ご機嫌で



そうして扉に 気がついて

再びわたし 籠の中

閉じ込められて 天空を知らずに

唄 歌うことなく・・・



唄 歌うことなく・・・

「歌わないカナリア 出来損ない」

「また新しいの 買いましょう」

「また新しいの 飼いましょう」



そうして翼 引き千切られたそのままに

籠から出されて 捨てられて

飛べないままに 捨てられて

アスファルトの上 彷徨って



彷徨った挙句 彷徨った挙句

初めて 初めて 声を出してみたら

初めて 初めて 歌おうとしてみたら

わたし 歌い方 知らなかった・・・



そう わたしは唄を 歌えません

わたし 歌ったことが無かった

意固地になって 歌わぬうちに

唄を忘れた カナリアだった・・・



羽ばたく翼の 無い夜明け

寒い冬の日 雪催い(もよい)

路に倒れて 凍えていたら

おじさん 見つけてくれたけど



おじさん ゴミの集荷人

おじさん わたしを撮み(つまみ)上げ

青い色した トラックに

放り込まれて 放り込まれて



わたし 一度も歌う前

わたし 一度も羽ばたけず

わたし なんだか転がって

わたしの生涯 閉じました




自由詩 カナリア Copyright もっぷ 2019-11-15 07:11:28
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