径と銀河
木立 悟





夜 窓に至る暗がりに
幾つかの鉄柱が立っていて
ここからは月の檻です
と言う


長い長い髪の毛が四本
自分が髪の毛だと知らぬまま
夜に絡み
そよいでいた


排水口と空を昇り降りする星の子を
何も言わずに見つめる猫
濡れた枯れ葉に立つ柱
陶器の径を過ぎてゆく曇


身体の何処かに潜む龍が
ぐぐむぐぐむと姿を起こし
皮膚に骨の山脈を描き
ことごとく嵐を消し去ってゆく


陽は落ち 幾度も落ち
窓は幽かに明るい羽に覆われ
絵巻は燃され 燃されつづけ
なお描かれつづけ 夜を照らす


黒のなかに黒の樹が立ち
多くの弱きものたちを匿っている
黒い風が吹く 何も染めることのない
黒い風が吹く


左目は常に冬だけを見つめ
他の何かを映したことはなく
まばたきはばたきひらめき
こぼれ落ちる火の行方を記す


夜の灯のにおいが聞こえると
小さな月の群れが家々を巡り
足跡は昇り 朝となり
朝は朝に重なってゆく


多くは叫び 多くは閉ざす
黒のなかの黒の樹から
羽は生まれ生まれ生まれて
小さな銀河に径を照らす




























自由詩 径と銀河 Copyright 木立 悟 2019-11-07 20:17:16
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