わかれ わかれ
木立 悟





左目の鴉は月に帰り
右目の鴉は海を埋める
冬 青 銀 冬 青 銀
径のかけらが 径に散らばる


服は水に濡れ 黒くなってゆく
黒くなってゆく黒くなってゆく
臓物が背から飛び出ても
気付かないほど黒く


光の角
崖の上の鹿
飛び降りる鹿
光の崖


胸にそよぐ堅い羽
囁きの壁 城を囲む
下へ 上へ解く
双つの閉じた目


世界は白く
世界は暗い
星は鳥にさざめきさざめき
水の向こうに向こうに帰る


視線から音を奪うもの
風で夜を塗りつぶすもの
十指の腹で夜をなぞる
丸い突起を丸くなぞる


遠い遠い雨の針が
小さく無数に光りかがやき
到くことのない吐息に霞み
朝と午後に溶け込んでゆく


むらさきの髪の子は
むらさきの羽の子になり
やがてむらさきの歌の子となり
むらさきの角を分け与えてゆく


どこまでも平らな空に
平らな地面が映り流れる
たなびきながら消える家々
誰もいない大陸の午後


ひとつは億の流れを見
億は兆の分かれを見た
分かれつづけひとりになる径
分かれてもなお ひとつの水


















自由詩 わかれ わかれ Copyright 木立 悟 2019-10-22 20:32:00
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