ザ・リバー(海に流れ着くためとは限らない)
ホロウ・シカエルボク


そこには縁の欠けた器があり、中にはなにも注がれてはいない、埃が厚く積もるほどに長く食卓に捨て置かれたそれは、詩を持たぬものの心で膿のようになって生きている詩情を思わせる、わかるか、回路を持たぬものには祈りが生じない、彼らは回路を繋げる手段を持たない、それは、意識的になって、探さなければ見つけられないものだから、仮に求めたところでそれが必ず手に入れられる保証など万に一つもないものだから…俺はそれを始め、貪欲に求める事こそが良いと考えていた、だけど、そうして手に入る小さなものをひとつひとつ検分して飲み込んでいくうちに、それが必ずしも正解というわけではないということに気づいた、飢えた犬はやたらと食い散らかすものだろう?―とはいえ、それは噴出される熱でなければならない、そのことは間違いない、それは当然のことだ、でもそれは、必ずしもそのままに描かれなければならないかというとそうではない、適したやり方というのが必要になってくる…溢れかえるものでも、すべてをいっぺんに晒してしまうと途端になんの意味も持たなくなる、そんなことだってある…そのままでは遠くへは行けない、高みへ昇ることも出来ない、流れの速い、大きな川を想像してみて欲しい、それは激しく、暴力的だけれども、決して流れを外れることはない、だからそれは川として成り立っている―俺が言いたいのはそういうことだ、流れがあり、そこから溢れてしまえば、それはそれまでのものとはまったく違うものになってしまう、そこにはスピードという感覚があり、制御という感覚がある、どんなに速く走ることが出来るレーサーだってカーブではアクセルを緩める、ステアリングやサイドブレーキやなんかを使って、そこを一番効果的に曲がる方法というものを経験で手に入れる、そうすることで結果的に、彼はスピードを落とさずに生きることが出来る…俺は、暴走するのが好きだった、とにかくぶっ飛んで、闇雲に叩きつけるのが好きだった、快感だった、それ以外にはないとまで思っていた、でもそれはある時変った、俺は食い散らかす犬だった、わかるか?それはすべてを飲み込んではいないということだ、それに気づいた時俺は、スピードの中でいろいろなことをこなすようになっていった、別にそれは、技術として習得してきたものではなかった、自分の中である種の納得を手に入れるための、無意識の試みが結果として確たるものを手に入れたということだ…無意識!俺は無意識を有難がり過ぎるきらいがある、その結果、無頓着になってしまっては何の意味もないのだ、俺は大量の水を湛えて、流れ方を学ぼうとする川だった、意識的に無意識の流れを作り上げていった、それは簡単に出来るようなことじゃない、間違えなかったのは、スピードを維持し続けたからだ、訳知り顔で短い言葉を吐くようなスタンスには俺は興味が無い、ともあれ流れは出来上がったのだ、築き上げられるのはこれからだ―遅過ぎるって?とんでもない!俺はこれを一生賭けて築き上げていくべきものだと考えているよ、だから、早過ぎることも遅過ぎることもない、そんな概念はここには存在しない―だからスピードは維持される、これは俺が、言語のハイウェイを飛ばし続ける記録に過ぎない、でもたったひとつの線には、俺が人生において覚えてきたことのほとんどが集約されている、俺の一篇の詩であり、俺のひとつの人生であり、これまでに書いてきたものの変貌だと言える…だからさ、もし君が少しでも興味があるって言うんなら、一字一句漏らさぬ覚悟で目を見開いて受け止めてくれ、興味が無いのなら簡単な言葉だけ拾ったりしないで、もっと楽しそうな所へ行けるまでクリックを繰り返すことだね―


自由詩 ザ・リバー(海に流れ着くためとは限らない) Copyright ホロウ・シカエルボク 2019-10-04 00:07:29
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