夏の角
帆場蔵人

夏の角が丸くなっていくのは夕刻です

角砂糖はアルコォルに融けながら
炎に包まれ送り火が星に燃え移ってゆくなかを茄子の牛がゆたりゆたり歩んでいきます

祖父だけは胡瓜の馬に乗り、秋や秋や、と
叫んで去っていきました、今年も祖父の顔を
みれませんでした、風鈴を揺らした夏の
最後の風は祖母の溜め息かもしれません

蒼い、送り火が空を焼きながらざぶざぶ溢れ、津波のよう、精霊船が燃えながら流れ去り、秋を待ち焦がれ角砂糖がとける速度で夏の角を落として踊る人びとの輪、さざめき

夏の角は丸くなっていくのが、夕刻で、
花火が咲いて、さざめく眼の群れの海
空に還る魂の破裂、アルコォルと角砂糖
甘やかな匂いだけが秋を待ちながら
人と人の波間を漂っています……

夏の角が丸くなれば、それは、秋、です
夏の角が、朝顔と咲いて、種を散らしました
そして、秋、です


自由詩 夏の角 Copyright 帆場蔵人 2019-09-02 01:05:12
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