迷うもの 水の径
木立 悟





曇の朝が小さく鳴き
星と風を交換する
数えてもらえないものがひとつ
水たまりのそばでふたつになる


建物の骨 ひらく青空
涼やかな光が
揺れる原の一部を
昼のなかの夜を照らしている


風の音に花の音
やがて水の音になり
たちたちと飛ぶ足の音
羽の音に乗り戻らない


冬を求め冬に迷い
赦し赦さぬ喧騒を過ぎ
見るはずだった夜明けを逃がし
午後に目覚め 夜を浴びる


径端につづく湯気の器
さくらんぼの樹
さくらんぼの樹
ほんの少し明るい空


光を見ればこぼれる光
そこに無い坂をのぼる声
虹 夜の奥の虹
触れては沈む 水の気配


脚をこするやわらかなものに
行方は常に乱される
降る火 降る火 光の草
更地に羽を打ち寄せる


霧より薄く 霧より広い蜘蛛の巣が
夜の上から離れない
壁は鏡 宙は鏡
音は吸われ 姿は残り
みな静かに迷い 過ぎてゆく



























自由詩 迷うもの 水の径 Copyright 木立 悟 2019-06-27 08:08:46
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