母の季節は夏と冬
かんな


母が静かに佇み
やわらかな星々に横たわると
夜が落下する速度で
慈しみと憎しみが揺れ動く
母の季節が訪れるとき
夏と冬が行き来して
子どもたちは春と秋を奪い合う


「あんたは身の程知らずだわ。
「育て方、失敗だったわ


夜を更に黒く塗り潰す
月がひとつ綺麗で白い
希望って何
朝は明るく眩しい
事実を照らすから
早く早くと急かす


*


夫のコーヒーカップを洗う
ふちに茶色い汚れが残る
汚れが残るから
洗い落とす
息子の起きた音がする
音は日常をやさしく
私に渡してくれる


*


父はどこに
祖母は祖父は
姉は兄は
家の中にいる
みんなどこを向いている
私に気づかないのはなんで
カーテンを抱く
ひどく軽い
ひどくやさしくて
腕をすり抜けない
部屋の片隅でしゃがみ込む


「わたしを見捨てる気なの?
「あんたの為にやったのに


夕陽が海に沈むときひとは
誰かを憎んだりしない
海底の貝殻は
何かを叫んだりしない
自転車に乗り
海岸線を走る
サドルが擦れ
わずかな痛みが走る
海辺は泣くためにある
涙はいくらだって海が隠す


*


息子が月の話をする
なんで昼間は白いんだろうね

いってらっしゃい。
いってきます。

夫と息子に手を振る
朝日が昇る速度で
ゆっくりと日常が私を照らす





自由詩 母の季節は夏と冬 Copyright かんな 2019-05-21 09:26:20
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