中原中也のあの有名な詩が
こたきひろし

大洗の海がすこぶる荒れていた
無理ないよ
台風が近付いているんだから

海は遊泳禁止になっていた
当然だよ
季節が外れていたんだから

水族館の駐車場に車を停めた
台風が近付いているんだけど
やっぱり日曜だったからだろう
駐車場はそれなりに車でうまってた

水族館の建物は
駐車場より高い場所にたっていた
海をすぐ前に見下ろして絶え間なく浪の音に侵食されている。

妻とまだ幼い二人の娘
家族四人
大洗の海には年に何度か来ていたけれど
それはいつも夏じゃない

夏は海水浴客であふれて
水族館の前の砂浜はサーフィンをする若者たちでいっぱいになる
らしい

夏は避けているからこの眼では見てないけれど

海は誰もいない方がいい
のに
これまで一度だって誰もいない海に遭遇したことはないんだ

きっと
海は磁力を持っているに違いなかった
人間を引き寄せてしまう磁石

だから
台風が近付いている強風の日でも人が集まってくるんだろう


私とその家族は大洗へ来る度に水族館の駐車場に車を停めるけれど
水族館には入らなかった
入館料金がバカにならない値段で
それが家族分となると諦めるしかなかった
子供達の気持ちを考えたら不憫ではあったけれど

そのかわり施設内に併設されたフードコートで軽く飲食して時を過ごした
フードコートから見える硝子越しの海は絶景だか、波は高く荒れていた


私は何気なく中原中也のあの有名な詩を思い出して
声には出さずに空読みした

詩人がのこした言葉通り
たしかに海には人魚などいなくて
その日は
空をのろっているような
大洗の海があるだけだったのだ


自由詩 中原中也のあの有名な詩が Copyright こたきひろし 2019-04-21 02:37:15
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