見えないもの
やまうちあつし

見えないものを買うことにした
店舗に行き店員にそう告げると
奥の方から適当に見繕ってくる
見えないものは目には見えない
価格を尋ねると全財産だという
ゆたかなものもまずしきものも
すこやかなものもやめるものも
自分の持ち物を全て差し出せば
見えないものが手に入るという
私は迷った末に妙案を思いつく
店員がふと席をはずしたすきに
品定めをしているとみせかけて
すばやくそれを懐にしのばせる
また来ると告げて店を出る私を
何とも言えない顔で見送る店員
私が盗んだ証拠はどこにもない
それは見えないものなのだから
黒い風のように家路をたどる私
帰宅して懐から取り出してみる
机の上に置き眺めてみるけれど
どこにあるのかわからなかった


自由詩 見えないもの Copyright やまうちあつし 2019-01-25 20:22:00
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