正調 繁殖願望の詩
こたきひろし

高嶺の花ってのはどんなに背伸びしても届く筈のない高い所に咲いているから、高嶺の花なんだろ。 
 そうだよ。神代の時代からそう決まってるよ。
そうか、そうなんだよな。でもさ、一度好きになっちまったら、どうにもこうにも歯止めが利かないもんだろ
 なんだよおまえその顔となりで女にでも惚れたんかい。止めとけ止めとけあきらめろ。どだいおまえに女 は無理だ。世の中には鏡ってものがあるだろ。しみじみてめえの顔を覗きこんで見ろよ。わかるだろ そ のぶさいくで品のない顔が。もしおまえが女だったら、離れて離れて視界にも入らないでって思う類い  だぞ。まさかおまえ自分の顔を鏡で見たことない訳じゃないだろ。
そんなの言われなくてもわかってるよ。俺のひん曲がったようなみっともない顔わよ。でもさ、男は顔じゃないだろう。醜男なのにとびきりのべっぴんを嫁さんにしてる例は幾らでもあるぜ。あれはなかみに女が惚れる証だろ。
 そんなの違うな。あれはなかみではなくて持ってる物さ。はっきり言えば金よ。それもはした金じゃ駄目 だ。大金とかそれをふんだんに生産できる職業とかさ持ってないと。生まれた家柄と学歴。育った環境が よければ男人生のいいトッピングになるし。持ってる物が高嶺の花なら女は自然によってくるよ。
それを言われたら身も蓋もない鍋だな。最初から火にかけられないよ。仕事は肉体労働についてるし、低賃金。実家は土田舎の貧農家だし、ろくな学校出ていねぇし、車は新車を乗った事はねぇ。ずっと中古ばかり乗り継いできた。俺だって新品乗りてぇが、なにぶん金に見放されてるからさ。無理無理なんだよ。それじゃ高嶺の花はさっさと諦めて、低嶺の花はどうだろう?
 ばか野郎。低い所に咲いてる花ほどお日様に当たりたいんだよ。おまえみたいな陰気で日影の男なんてい ちばんの嫌われ者さ。
そこまで言われたら俺はこれからどうすればいいんだよ。
俺を産んで育てた母ちゃんよ。あんたの立場と責任はどうなってんだよ。
 そんなの知らないよ。母ちゃんはたしかにおまえを産んで育てたけど、畑の役目をしただけでおまえの将 来までも保証する気はさらさらないから。それよりそこまでなるようにしてやったんだから、結果はどう あれ感謝はして欲しい。父ちゃんと母ちゃんに親孝行してくれなけりゃ。おまえを産むに当たって母ちゃ んは痛い思いしたんだからさ。父ちゃんには精一杯頑張って貰ったし。
何だよそれ、息子にさりげなく下ネタか。こちとら種子はいっぱいあるのに肝心の畑が手に入らなくて悶々としてるのにさ。


自由詩 正調 繁殖願望の詩 Copyright こたきひろし 2019-01-06 08:19:05
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