クリスマスイブ
マチネ

神を今すぐ信じてください
必ずや神はお救い下さいます

裁きの日は近い

と日本語で、優しく、
男の声で振動するスピーカーを
槍に貫かれた首級のように掲げて
ブロンドの長髪が引力に逆らえずに雪崩れている

昼時の銀座の歩行者天国は馬鹿馬鹿しいほどの人がいて
上目遣いの三白眼は
人々を丸ごと飲み込もうとして、ぎらついていた

彼女はいったいなにじんだろうかと私達は話した
たとえ何人でも、どうでもいいと思いながら
仲間の一人はドイツ人だといいなといった
なぜいいのかは言わなかったし、誰も聞かなかった
ただぼうっとそのような話をして
ぼうっと彼女の脇を通り過ぎた
幸い、彼女の真っ青な目は私達一人ひとりのことなんて見つけてはいなかったから

そのまま、私達は思うがまま買い物をした
祝祭の前夜にふさわしく
そして、柔らかく焼いた仔牛の肉を食べた
血の今にも滴るような

帰り際、同じ道を引き返すと彼女はちょうど交代時間だった
短く刈り込んだ髪の男の白人に
宣教道具一式を引き渡すと
できるだけひと気のない道を選んで去っていった

彼女から引き継がれ掲げつづけられるスピーカーには
人々の罪はキリストの血によって贖われたという殴り書きが
相変わらず優しい日本語とともに震えている


自由詩 クリスマスイブ Copyright マチネ 2018-12-24 22:40:30
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