水精とは
本田憲嵩

生活には潤いが必要だったことについて
少しばかり語りたい
たとえば
星星や月に照らされて浅い川面に映える
逆さまになった細ながい樹木のような体幹も
おだやかな夜風に棚引くその黒々とした頭髪の枝葉も
すべては
昇る太陽と共に起床し 沈みゆく太陽と共に家路を目指す
規則正しい時計の針のような生活の中 寝台という名の透明な水の層に揺蕩って
性的な夢の波間からふいに漏れ出した 他愛もない
夢精のような謔言に過ぎなかったのさ
或いはそれはほとんど無限に近い精液の海から精製された
もう一人のボクでありながら
決してボクじゃないボク/もしかするともう一人のワタシ?
そうしていつも夜になると
ボクじゃないもう一人のワタシが居る?
しかし これさえもさして変わり映えしない単調な日常の牢獄から
振り子の原理さながらに
ぼく自身が編み出した
潤いという 膨らみに膨らんだゼリー質の半透明な夢の重し
生活の乾いた岩石と常に釣り合いを取るための 夢と現実の両天秤


水精とは
すなわち女性の瞳の水面(みなも)のように青く澄んだ僕のなかの潤いの結晶体
つまるところぼく自身がその水精だった
という訳なのさ



自由詩 水精とは Copyright 本田憲嵩 2018-09-20 01:15:39
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