八月の食卓
Seia

剥いたあとの茄子の皮をぺらり、ぺらりと、
指先でつまんでは捨てては夕暮れて。
雨の匂いを連れてくる獣が庭先から見ている。

サラダ油が騒がしくなる。
菜箸の先で茄子をころがしながら、
はじける音が夕立と混ざり合う。
もうすこし、
遊んでいたかった。

砂利を噛んだ記憶。
タオルで額の汗を拭う。
近くに公園のある家でよかった、と、
食卓の場で聞いたのは、
今日とおなじように、
夏が去っていく気配がした日。
しいたけのくすんだ香り。

ジュ、ちいさく鳴って、
焦げた茄子がだしつゆに浸かる。

ネギを買い忘れていることに気づいて、あわてて、考えて、
野菜室の底に眠っていた生姜を細く切って、
プチトマトをついでに入れて、完成ということにして。

足跡も残らないほど濡れた地面の下の方から、
ぬるい空気と冷えた空気が交互に運ばれてくる。

ここ最近笑ったことはなんですか、
テレビのなかの街頭インタビューが、マイクが、
わたしに向けられているような気がして、
ゆっくりと音量をさげていく。

茄子を取り出したあとのつゆを、
捨てようかすこし迷って、床の上の段ボール。

見ないふりをしていたそうめんを、
明日処理することにした。


自由詩 八月の食卓 Copyright Seia 2018-08-26 22:05:04
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