simile
木屋 亞万


心の薄い皮を
細く削いで
お湯に浸して
柔らかくしたものを
ぐいぐい編んでいく
腰のあたりで
ミツバチが巣をつくり
ひそかに蜜をためている
肺の辺りに茎が伸び
小さな紡錘体のつぼみが
大きく漲り花の咲くころに
濃い血がたくさんいるだろう

やけに肩が凝る
背中に張り巡らされた
シートベルトの繊維が
ほつれつつある
手首を流れる管が
中折れして
指が痙攣しつつある
馬の走るように
波打つ心臓に合わせて
なかなか良いリズムになる

のびをしたとき
からだの底から声が出て
そのまま歌いだせそうな気分になる
喉から声が出た途端
すべての幻想がしぼんでしまう
わたしのなかにソウルシンガーはいない
踊るのには向かない
角ばった関節と
しなやかさのない筋肉が
左右に揺れるしかないが
鏡に映る姿は
みじめに泣いているようにしか見えない

僕はお前自身だ
わたしは君とともに眠り
それをたべるときあれに食われている
愛を思うとき恋に焦がれて
水に足を浸すとき喉は乾いている
彼女は好きな人がいるが彼ではない
風車は風向きと違う方に回る
吐く言葉は自分に溜めた言葉は呪いに
長生きするほど臆病に
強くあるほど美しく
悲しいほどにやさしくなって
ここにいるすべての人間は私なのだ

なにもかもが特別で
どうしようもないくらい平凡だ
愛してるよ世界
飽きるほど食べて
頭が痛くなるほど眠って
腹がよじれるほど笑って
声が枯れるまで歌おう
余裕があればやさしくなれるさ


自由詩 simile Copyright 木屋 亞万 2017-09-23 09:46:09
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