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木屋 亞万

歌が流れたときに特徴的なイントロのものが好き
これから始まる歌詞と声に道を作りながら
世界観を広げていってくれる
心が弾んでいくはじまりの予感に満ちている
そこには新しい別の世界が広がっている

不意に漏れ出る他の家の生活感が好き
よく言うカレーの匂いとか
シャワー浴びながら歌ってる声とか
網戸越しのテレビの音声と誰かの会話とか
道を歩いていて予期せず届いてくるのが良い

特に時間を見ていたわけでもないのに
駅に着いた瞬間に電車が来たらうれしい
さらに自分の前の席が空いたらラッキーで
周りの乗客の素が漏れ出ているのを観察するのも楽しい
電車に乗っている間に何をしているかによって
その人の価値観を少しかじれた気分になる

百貨店の落ち着きが好き
余裕と気品があって良いものが高く売られている
城下町はきっとこんな感じだったのかもしれない
歩けばいい香りがして宝石や服がきらきらしている

おっぱいが好き
服をきて歩いている人のたゆんたゆん揺れているのがいい
中がどうなっているとか
見えてる見えてないではなくて
ただ揺れているのが好き
誤解を恐れずに言えばわざとじゃない感じで揺れているのが良い

喫茶店でメニューをめくるのが好き
ジャンルごとにページが区切られていて
写真や絵が添えてあるとなお良い
カレーやサンドイッチにパスタもあるのか
コーヒーや紅茶でもこんなに種類があるのかと感動する

あつい飲み物のはしっこに口をつけてちびちびと飲むのが好き
息を吸いながら飲むのが良い
わずかに入った液体から
そのかおりと味が広がる
最初のひとくちが一番おいしい

鍵のかかる瞬間が好き
じょりじょりと鍵を差し込んで横に倒したとき
カチャンと鍵がはまっていく感じがたまらない
ちゃんと閉まったかどうかたしかめてしまうけれど
ドンと構える姿もすてき

夏の終わりに扇風機を片付けるのが好き
放射状のかごみたいな円形の蓋を外して
くるくると留め具を取ると羽のふちに埃がついていて
羽根にも細かいほこりがついている
おつかれさまと思いながらきれいに拭いて片付ける

夕焼けが一日一回あることが好き
日が赤くなって沈んでいく
時には雲が真っ赤になって
西から鋭角に差し込む光がまぶしくて
街も人も自転車も道路も海もすべてに夕日の層がかかる

日焼けした後のめくれていく薄い皮膚をぺりぺり剥すのが好き
かさぶたは大物ほどリスキーで成功するとピンクの赤ちゃん肌
皮膚からにゅるんと脂の塊を出すときにも似た良さがある

日常に区切りが見えて日々が終わっていくときの帰り道が好き
楽しいことが多かったときほど振り返る回想が輝く
そこで踊る声や景色がまぶしいくらい鮮やかで
泣きそうになるし
しがみつきたくなるけど
そっと手を放して
次に進むしあわせ


自由詩 いいね! Copyright 木屋 亞万 2017-08-26 22:35:56
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