踊りを踊るには
春日線香

踊りを踊るには
こうするんだよ
といって
知らない男が窓から入ってくる
ひょろ長い腕が床にまで垂れ下がって
体がやけに白くすべっこい
黒い薄衣のようなものを羽織っていて
その下はまったくの素裸である
わたしはもうずっと縛られているので
生ぬるい床に片頬をつけて
男を眺めるともなく眺めるしかない
踊りを踊るには
こうするんだよ
といって
知らない男が奇妙な足取りで
部屋の四隅を行き来しては
甲高い声で歌っている
その歌をよくよく聴けば
はるか以前に滅びた国の
狐と老人の物語であるらしいが
あるいはそれはまったくの間違いで
ありきたりの田植え歌なのかもしれない
蛇がとぐろを巻くように
節回しは高くなり低くなりして
男の喉は膨らんだりへっこんだりする
踊りを踊るには
こうするんだよ
といって
知らない男は汗をかいて
身振り手振りで大きな家を作り
その階段を昇り降りするが
わたしはもうずっと床に転がされているので
踊りを見るどころではない
いつになったらやめるのだろうか
もうこの踊りは終わらないのだろうか
白けた気分でなかば目をつぶっているのに
男は一向にやめる気配がない
踊りを踊るには
踊りを踊るには


自由詩 踊りを踊るには Copyright 春日線香 2017-06-02 02:46:11
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