水色の宝石
DFW


バスを降りて、すこし小高い場所にある停留所から
なだらかな坂をくだっていく
昔、万博が開催されたこともある街

坂をくだりきった道の角には
くたびれたカボチャやスイカを段ボールに積みあげて店先で売る小さいコンビニがあった

看板は色褪せて読みづらくて
品揃えもいつも悪く、たまに賞味期限のすぎたお菓子が置いてあり、店内には虫がブンブン飛んでいて、レジの横には熟れきったバナナが山積みにされていて、バイトの子はお会計を暗算で済ませると椅子に座って漫画を読み耽り、店長のおばさんは茶髪のソバージュをなびかせて英語で話しかけてくる、でも一応フランチャイズのお店

わたしはいつもそのお店に立ち寄って、キンキンに冷えたアイスキャンディーを二本買い、それから歩く速度を少し速めて彼の部屋に向かった


チャイムを鳴らすと彼は部屋のドアをそっと開け、わたしの手の袋からアイスキャンディーをつまみあげて部屋の奥の低い窓枠に座って食べ始めた

アイスキャンディーを食べ終えると彼はいつもわたしとシャワーを浴びた
わたしの体にあてられる手や、大きめの桶から浴びせられる冷えびえとした水の存在感を覚えている
ただあの夏の暑さだけは何故かうまく想像できなくなってしまっている

わたしたちはあまりセックスをしなかったから
浴室での彼の振る舞いをよく覚えている
彼はわたしの髪や体を丁寧に洗い、わたしの歯を優しく磨き、わたしの体を念入りに拭いて、床でシワのついてしまった服をまた着させた


休日に彼が一人で動物園に出かけて、写真を何枚か撮ってきたとき、どれにも動物が写っていなかったことがあった


その年の秋が終わる頃になると、わたしは彼の部屋を訪ねなくなった

きっとあの頃できることをできるだけすることは、するべきことがまったくなにもないということだった


7月にもなると、彼についてのことをわたしは毎年のように思い出す
風変わりなコンビニや、水色の宝石のような彼とそのアイスキャンディーを



自由詩 水色の宝石 Copyright DFW  2016-07-05 22:05:19
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