微笑
ただのみきや

わたしの愛しいお月さま
 借り物の光で身を装いながら
 あなたは女王のように天を渡って往く

わたしの愛しいお月さま
 ちょっと見わからないが肌は荒れ
 あっちもこっちも傷だらけ

わたしの愛しいお月さま
 満ちた欠けたと言われているが
 あなたはあなた いつも十全に

わたしの愛しいお月さま
 目には見えないあなたの引力
 この胸の潮は満ち躍る魚は銀のナイフ

わたしの愛しいお月さま
 人の審美眼なんていい加減なものでしょうね
 文明の曙と黄昏をぐるり見下ろしたあなたにとって

わたしの愛しいお月さま
 夜空の辻にただ一人
 見上げる者には気前よく目配せする娼婦のように

わたしの愛しいお月さま
 だけど孤独な者だけが聞くでしょう
 その冷やかな光の歌声を

わたしの愛しいお月さま
 それは悠久の時が純化したもの
 見上げた数多の悲しみの照り返し――微笑



             《微笑:2016年6月22日》








自由詩 微笑 Copyright ただのみきや 2016-06-22 20:47:16
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