深海魚の気持ち
亜樹

 遮光カーテンは閉めきったまま
 四角い箱の中
 スマートフォンの青白い灯りを頼りに
 じっと目を凝らす夜。

 
 ここいらはもう海の底でした。
 重たくて、暗くて、冷たくて、塩っ辛くて。
 生臭い体液の匂いが生でした。
 その底に沈む、醜い魚。
 ぐねぐねした肌。
 濁った目。
 鋭い歯は何の力もなく、
 自身の舌を、
 痛めつけ、
 そうして吐き出す、あぶくが一つ。
 また一つ。
 

 心臓だけがうるさく叫び、目は冴え、その癖頭はかすみ。
 自分からは動かないくせに、誰かが見つけてくれるのを待っている、
 さもしい魚のそのおぞましさ!
 特別な才能なんかを、持っているわけでなく、
 誰かにとっての、必要にもなれず、
 舌の根は乾き、もつれ、
 呼吸ですら満足にできず、
 そのくせ浅ましくも報われる日を待っている、
 深海魚の吐く、そのあぶくが一つ。
 また一つ。






はじけてしずむ







自由詩 深海魚の気持ち Copyright 亜樹 2016-04-02 03:22:04
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