さよならなんて云えないよ
草野春心
物陰にひそんでいる、一頭の
動きののろい獣をみつめるみたいに
流れているのだろうか、ぼくにとって
あの時間もこの時間もどの時間も?
不揃いの靴たちの
せつない臭いは悪ふざけ
嗄
(
しわが
)
れたレインコートを棚において
それでもあなたは
閾
(
しきい
)
をまたいで
この部屋へ入ってこないで
どこか遠くでしらないうちに
降っていた薄気味悪い雨にぬれ
あなたはそこに立ち尽くしていて
話をはじめないで 硝子戸のそばで
写真立の前で 瓶差しの花のうしろで
ぼくにむかって うつくしくわらって
さよならなんて云わないで
自由詩
さよならなんて云えないよ
Copyright
草野春心
2016-02-16 21:28:41
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