かなりあ(他 三篇)
乾 加津也

かなりあ
    作詞 西條八十 作曲 成田為三
    「唄を忘れたカナリア」から


訪わない
かなりあは
もう唄わない
あとは捨てられるまでを
生きる

眠る瞳で
唄っていた
生きていた瞬間(とき)に
満ちて溢れた
一筋の音色を手繰り寄せていた
冷えた嘴が
月夜の海にひとつ
象牙の舟に揺られながら







夏の思い出
     作詞 江間章子 作曲 中田喜直
     「夏の思い出」から


きみと贅沢な思い出になった
尾瀬ヶ原
鳩待峠を下り
熊除けを鳴らしてたどり着く
秋の尾瀬は
ゆったりと目をつぶり
眠りの前のまどろみを湛えていた
力を足元深くに
沈めていた


歌に憧れた
夏なら尾瀬(ここ)は
両手を開き
ミズバショウやニッコウキスゲの花を噴き出させるのだろう
山頂から人らの木道を
止まらないおしゃべり鳥たちや
過行く雲といっしょに
笑ってみているのだろう







南の島のハメハメハ大王
           作詞 伊藤アキラ 作曲 森田公一
           「南の島のハメハメハ大王」から


ドラマや小説、ジョークも多い
無人島シリーズ
私は
トイレに座る妄想に無人島を使う
自分一人の無人島は
すでに無人島ではないが
それでも前人未踏のロマンが未だ埋もれたまま
すでに
自分が法律であり医療である
(教育であり流通である)
自分が事故現場であり救済措置である
全国民であり
全ヒト細胞である

風が吹けば自分に遅刻し
雨が降れば自分を休む
名前も自分でつけるしかない
南の島のハメハメハ


日本列島が
人一人いない無人島なら
私は社会をまっとうに生きられるのだが


自由詩 かなりあ(他 三篇) Copyright 乾 加津也 2016-01-16 19:13:27
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