犬悪
蒼木りん

一匹で眠れない犬が
夜中に泣くので
布団を運んできて
傍らに寝た

エアコンは
電気代がかかるので消す
モーターにも
休んでもらおう

犬は
私の寝顔を時々確認して
首を床につけて
眼を閉じた

犬は何故シッポを振る
お前は何故
パンをもらうときだけ
お座りする

寂しい犬だ
咥えたものは
自分のものだと
唸って誰にも渡さないのに

犬は嫌いだ
私は仮面御人好しで
身に関わることは拒否しない
猫が好きだった

私には
母性愛が無い
友愛も情愛も
疾うに無い

ときどき
エアコンは
ため息をついて休む
たぶんそれが友だち

夫は子供時分
犬に噛まれて母親は凄い剣幕で抗議したそうだが犬が好きで
妻は
幼児期猫使いと信じて猫に噛まれて腰を抜かしたが猫が好きで

男は母親が自堕落な家庭に育ったが
結局はっきりしない女と結婚した
女は父親が空威張りする家庭に育ったが
結局亭主関白を夢見る男と結婚した

寝際に
自動的に誘導される
夢への序章
そんな灰色の催眠

犬が来た頃
私はアレルギーで
咳が止まらなかったが
4ヶ月ほどで克服した

嫌いだった犬を
撫でている
今も犬は嫌いだ
でも犬悪ではない





未詩・独白 犬悪 Copyright 蒼木りん 2005-02-19 23:44:41
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