もんじゅ
たま



臨界に旅立った母は、すこし痩せたみたいだ

もう、帰りたい。という
ここには団欒がない。という

距てるものは何もないのに
働きすぎたのだろうか
午後十時二分の、電動歯ブラシは
鏡に映る、
オブジェクトの、
顔の、
わたしの、
位置を、見分けることができない

思い出せなかったのだ
どうしても
こんなところで、パスワードだなんて
出口はどこにもないの。
ここは非常口なの。と、
綺麗なお姐さんが、わたしのポケットに手をつっこむから
あ、そこにはないよ。
こっちだよ。って、
気持ちいい方を指差す、
わたしは

暗い港に
夜明けを訪ねて
遅い舟を
漕ぐ

もっと、充電しとけばよかった。
もっと。

今ごろ、母はどのあたりだろうか
塩っ辛い波が
夜の鏡にあふれて
わたしの眼をあらう

たしかに入力したはず
夢の入口で
ヒツジさんを数えて
でも、
非常口には、シマウマさんがいたんだ
あの縞模様の中に
パスワード?
そんな気がしたけれど見つからない
あ、そうか。
あれはバーコードなんだよ。
だったら、
レジのおばさんを探せばいいんだ

それで、おばさんはすぐに見つかったけれど
なぜか、
いじわるな魚みたいな顔してたから
わたしは、近づけなかった
昨日まで、日本海にいたのだという
そんなこと、
聴いてないのに

ほんとに、どうかしてるよ
ここまで来たのに
夢の中で
パスワードだなんて

思い出したら帰してあげる。って、お姐さんが

あ、どうしよう。
あ、あ、どうしよう。
もう、帰りたくないかもしれない

母のいない夢の外へ
傘も差さずに
帰るなんて
あぶないよ。そんなの
あぶないよ。
だから

動かない
動かない
もう、動かない

パスワード?      
なかったんだよ、そんなもの
はじめから












自由詩 もんじゅ Copyright たま 2015-11-21 21:27:22
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