なまもの
春日線香

もうとうに亡びてしまった実家から
突然、荷物が届く
なまもの扱いのそれを開けてみると
ビニール袋に小分けされたなにかの刺身が
ぎっしりと詰まっており
特にこれといった説明書きも見当たらない
仕方なく取り出していくと
どうやらそれは一人の人間を薄切りにして
箱に詰めて送ってきたように思える
あれこれためつすがめつして
ようやく頭から足の先まで
身と身をつなげていけばそれは
たしかに見覚えのある祖父の姿で
わたしのことが心配で会いに来たのだろうか
おひさしぶりです
また満州のことを話してください
…………
満州では学校の帰りに
子供たちだけで山に行って
手のひらほどもある水晶を沢山拾ったよ
…………
窓の外で嵐が騒がしい真夜中
そっと布団を抜け出て
寝ている祖父を起こさないよう
こっそりと薄切りにし
少し醤油をかけていただいた
涙がこぼれた


自由詩 なまもの Copyright 春日線香 2015-10-26 20:04:47
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