Fantasie Impromptu
藤原絵理子


老夫婦は 一杯のラーメンを
夫は 妻のために取り分ける
妻が食べ始めたのを見てから
自分も食べ始める フードコートの午後


微笑ましい光景と 思うかもしれない
老人の箸の先は震えて チャーシューが
テーブルに落ちる 淋しそうな眼
妻は 一心不乱にラーメンを啜っている


恋は 朽ちて行き先の読めなくなった
道標の先に 逆行する幻想を残して
夜更けの巴里に流れた ピアノの余韻


静置した泥水は いつか沈殿する
長い長い時間をかけて 静かになる
透明になった上澄みの向こうに 心地よく歪んだ情景


自由詩 Fantasie Impromptu Copyright 藤原絵理子 2015-09-04 22:34:44
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