かえり道
藤原絵理子


電車の窓ガラスに映る
何か忘れ物をしたような顔は
別の世界にいる自分を夢見ている
手に入れたものと失ったものを 秤に載せて


手の中にあった 虹色の玉は
守ろうと握り締めた瞬間に 割れて
破片は 手のひらに突き刺さった 煌いて
血は手の甲を伝って 乾いた地面に滴り落ちた


失ったものは 重苦しく 胸の奥で燻る
青春の日の 五月の 耀きは
もう出番のなくなった 華やかな舞踏会を照らす


着飾った老人は 井戸の底に蹲って
見上げた丸い空に 星と月と太陽が
移りゆくのを眺める 無関係な世界を傍観する


自由詩 かえり道 Copyright 藤原絵理子 2015-05-12 22:28:52
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