さくらの歌
藤原絵理子


うす紫の夜明けに 投げ出された一冊の
古い書物に うす紅の花びらが降り積もる
開いた頁の活字に 重なって見え隠れする
過ぎ去った日々の残景は 霞んで


手を伸ばしたら 届いたはずの風景は
ためらう臆病なこころを 置き去りにして
別の分かれ道の先へ 遠ざかった
あたしは強がって 見て見ぬふりをした


土の香りが流れてくる
眠っていた生命の 吐息があふれる
老いた桜は 風に花びらを散らせて 笑う


ゆく春は 水晶の籠に
失ったことに慣れたはずの 憧憬を満たして
今年もまた かすかな痛みを残す


自由詩 さくらの歌 Copyright 藤原絵理子 2015-04-15 22:54:03
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