行く春に
藤原絵理子

まだ悲しみから 逃れられない
古い歌を聴いて 涙を流したりして
帰っていく 記憶の彼方にある
そこにあったはずの 別の世界に


きみが去った後も 同じように
山は煙を流し 村は雪に埋もれた
あたしは暖炉に火を入れ 洋燈を灯して
当たり前の暮らしに 埋もれた


子供の頃 祖母が教えた
日々のよしなしごとを ノートに綴って
待っていた それでも悲しみは


浅い春は 消え残った雪に 花を重ねて
風を待つ まだ枯れたままの林に
淡い緑の点描を 描かせる季節を


自由詩 行く春に Copyright 藤原絵理子 2015-04-13 23:00:27
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