春を送る
藤原絵理子


花吹雪舞う道を ひとりで歩いた
分かれ道で手を振って きみは去った
あたしのことは すぐに忘れる
夏が来れば 陽の光に夢中になって


花びらは風にのって どこへともなく
青い月夜の川に 流れ去っていく
闇に浮かんで 揺れながら
能面の下の素顔は 篝火の爆ぜる音に怯える 


心のいちばん柔らかいところを啄ばんで
見知らぬ鳥は 囀りながら飛び去った
春はゆるやかに 拒絶する


遠ざかっていくのは 悲しい記憶ではなく
喜びに踊る 木洩れ日の記憶 かすかに
さよならと呟く 蓮華草の広い野原に




自由詩 春を送る Copyright 藤原絵理子 2015-04-22 22:00:30
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