初めて大海へ漕ぎだす君へ
Lucy

社会人の切符を手に入れて
孤独な戦場に出ていく君は
もちろん希望と自信を
瞳に漲らせ
不安を乗り越えていく

おめでとう
母さんは
君の速さで歩くことさえ
もうできないのに
心配ばかりが胸を塞ぐ

今頃どこまで行ったでしょう
電車の時間に間に合ったかな
失敗して怒られて挫けてないか
お腹がすいていないだろうか

働き始めた頃の自分が
昨日のように
思い出される

つぶれた紙飛行機のように
ぐしゃぐしゃになったプライドを抱いて
布団をかぶった夜の事
情けなくて悔しくて
たやすく流れる涙をなんとか止めようと
闇雲に歩き回りながら
屋上で見上げた空の色
いつも負けそうになりながら
折れそうになりながら
歯を食いしばって自分を信じた

あの頃はまだ
人を育てるということに
社会が責任を負っていた
それでも
育つことは苦しかった

どんな仕事でも
はじめが一番きついんだよ
一か月頑張れば
次の一か月が見えてくる
一年頑張り抜けば
二年目は少し楽になる
五年十年続ける毎に
きっと実力が付いてくる
辛くてもオールを放さずに
精一杯漕いで行きなさい

そんな言葉が
今の時代に効力を持つのかどうかさえ
実は不明なんだけど

君のボートに
ひらりとカモメが降り立ったなら
それは母さんからの伝言
たまには港に戻っておいで
おいしいご飯作ってあげる





自由詩 初めて大海へ漕ぎだす君へ Copyright Lucy 2015-03-25 22:19:40
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