大堀相馬焼(福島県浪江町)〜その瞳をみていたら〜より
黒木アン

打ち水をした
石畳をぬけると
居ずまいを整えた
宿の女将さんが
品よく出迎えてくれて
よくいらして下さいましたと
冷えた麦茶をさしだされ
夏陽に火照る体には
愛情注がれたような一滴まで
のどにしみる
駒の絵柄

からころと
下駄を鳴らしてそぞろ歩けば
山あいのいで湯に
至福のとき

短夏に
蚊帳の張られた部屋で
もう一杯の冷酒にほろほろと
昔日の絵葉書に筆をのせて
ご機嫌ようと末もよろしく

となりの宿では
ようきたね
外は寒かろうねと
いっぷくの
のど通るあたたかさに
情あればこそ
しんしんと積もる
雪景色は
いっそう美しくみえて
長い冬を
少しだけ短くして
くれました

旅の人を
奥座敷でまっているのは
焼き魚に田楽
ちらちらと流れる水音と
地の酒にまどろんで
みやげは大堀相馬とこけしかな

東北の地で
冷えたるをあたため
暑さをひやしてきた
大堀相馬の湯呑みです



あれから長い時が
すぎまして
あの女将さんの
うしろ姿がありました

お百度を踏み
娘さんのお帰りを
待っているとか

野辺の送りもできぬと

漬け物石に
今日もおちた

身をしる雨が・・・


自由詩 大堀相馬焼(福島県浪江町)〜その瞳をみていたら〜より Copyright 黒木アン 2015-03-14 23:53:29
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