A sheep flies
猫の耳

泣いてばかりいたら、心が水分を失くして、カサカサに乾いてしまった。
冷たい風が吹いてきて、乾いた心を粉々に吹き飛ばしてしまった。

「寒いよ。胸がスース―するよ」

誰か助けてと、座り込み膝を抱え震えていたら、何かがゴンとぶつかってきた。
顔を上げると、まあるく太った羊がめえと鳴いて、身体を押し付けている。
「いつの間に?どこから来たの?」
「僕?さあ?」
羊は空を仰いだ。
「もしかして、本当に雲とか?」
「まあそんなもんですかね」
羊は首を傾げた。

私は冷えた心と身体を、羊に摺り寄せてみた。案外、ゴワゴワして肌触りが悪い。
「あんまり優しくないね」
「現実なんてそんなもんですよ」
羊は大きな欠伸をして、空を仰ぎ呟いた。
「いい天気ですよ」
私も空を仰いだ。
突き抜けるような青い空、眩しい日差し、プカプカ浮かぶ白い雲。
「いい天気だね」
私がそう言うと、羊は笑った。羊って笑うんだ?
「きっといい事ありますよ」
「そうかな?」
「そういうもんですよ」

それから羊はもそもそと身体を動かし、
厚い毛皮をスルスルと脱ぐと、身体を振った。
「あーすっきりした」
私は目を丸くして驚いた。毛皮を脱いだ羊は何だか奇妙だ。
「寒くないの?」
「うーん若干」
それから羊はその毛皮を、私にポンと投げてよこした。
「あげます」
「え?何で?」
「あなたが寒そうだからですよ」
毛皮に顔を近づけると、何だか匂う。…獣臭というか、明らかに動物の臭い。
そうだね。羊って動物なんだもの。
「臭いよ」
「贅沢言わない」
「でも、暖かい」
「でしょう?」
羊はまた笑った。それからくしゃみを一つした。
「大丈夫?」
「ええまあ…そろそろ帰ります」
「どこへ?動物園?」
「まさか…」
羊はその場で助走をつけると、ドコドコと音を立てながら、
そのまま空へと駆け上がった。
そして、浮かぶ雲の中に、頭からポンと突っ込んでいってしまった。

残された私は、貰った毛皮を肩に羽織った。
あっお礼を言うの忘れてたね。
「どうもありがとう…でもやっぱり、臭いよ…」


散文(批評随筆小説等) A sheep flies Copyright 猫の耳 2015-01-09 00:18:59
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